新連載

3回シリーズ(2)【新連載】三つ子の魂は「食」から

滋賀大学教職大学院特任教授(元京都市立公立小学校校長) 岸田 蘭子

子どもが健やかに成長し自分の夢を実現するために、一番大切な資源は”健康”であることです。だから子育ては健康第一で考えてほしいと思います。人の体は、食べ物と経験でできあがっていきます。だから「食べる」という営みを慈しむ子どもに育ってほしいと思うのです。生きるエネルギーは食べることで与えられます。食べ方も教えてもらわないとできません。子どもから大人まで一生を左右するといっていい大切な人の営みです。人は食べることで命をつなぎ、食べることで人と人をつないでいきます。このような信念をもちつつ、私は小学校の教育現場で食育に取り組んできました。そして取組を進めていく中で、小学校以前の就学前教育から食を大切にしていただきたいと願い、子育て講座などで食育の話もさせていただいています。
 台所から聞こえてくる音、香り、今日のごはんは何かを想像する脳が一斉にフルパワーで活性化して働きます。このような経験の繰り返しが子どもの脳を刺激し、鍛えていきます。このような基本を知ると臨機応変に物事は展開されていくのだということが分かります。次は舌です。幼くても侮ってはいけません。本物の味は小さい子どもほどよくきき分けます。危険なものは感じ取って口から吐き出します。味覚は3歳から5歳でほぼ出来上がるとされています。できるだけ、子どもの目や耳が届く距離で調理をしてみてください。幼稚園や保育園でも同じです。小学校でも同じです。「美味しそうなにおいがしてきた!早く食べたい」
毎日の楽しみです。家庭では毎日の手の込んだ料理がむずかしいかもしれませんね。しかし無造作に食べさせるのではなく、手間暇かけることができないときも「これは○○ちゃんが好きなおかずだから」「これはおばあちゃんがよく作ってくれたよ」「これはこの季節が一番おいしいお野菜だから」「これは一緒に食べておいしいっていってたから」「きのうは何を食べたら今日はこれにしよう」といった会話を大事にしてほしいです。なぜそれを今日は食べるのかを子どもにも伝えることで、子どもはいろいろなことを学びます。そして一緒に
「おいしいね」と言って共感できる喜びを積み重ねることが大切なのです。
 自分の体をつくる食べ物なのですから無頓着な子どもにしないように心がけておきます。子どもは大人の真似が大好きですから、いろいろな情報をもとに自分で食べるものを選ぶ力がついてきます。無理やり嫌いなものを食べさせることを目標にする「おどしの食育」はよくありません。生きる自信と勇気につながる食育が大事です。ちなみ
に食育という言葉は家庭以外の保育や教育の中で使う言葉です。食育で取り組めることはほんの一部にすぎません。大半は家庭での食習慣で子どもの食生活は決まります。私たちは公平にどんな子供たちにも食育を通して、いろいろな経験をさせたり、知識を与えたりすることで、そのお手伝いができたらと思って取り組んでいます。