新連載

【新連載】いつも帰れる港をつくる

滋賀大学教職大学院特任教授(元京都市立公立小学校校長) 岸田 蘭子

 人は生まれてから人生を終えるまで冒険を続け、困難な航路を渡っていく試練に耐えていかなくてはなりません。誰かに助けてもらいながら、一人で生まれてきて一人で決めて一人で航海を続けていくのです。真っ暗な孤独な夜を迎えたとしても、荒波の中で明日の生命の危機を感じても、私には「帰る港がある」と思えることが心の拠り所になるのではないかと思います。
 「可愛い子どもには旅をさせろ」と言いますが、どんな子どもにも自分の人生を自分の力でたくましく生き抜く子どもに育ってほしいと思いませんか。帰れる港があることを知っている子は勇気をもって挑戦できるにちがいないと思うのです。いくら失敗してもかまわないのです。人生は失敗の連続です。大人は失敗を責めるのではなく、失敗は悪いことばかりではないということを教えることが重要です。そして生きていれば必ずいいことがあるということを教えておかなければなりません。そこには、基本的な信頼関係が重要です。信じられる大人がそこに居てくれること、いつも見守ってくれている人がいるということを体で感じて知っているからこそ、安心して失敗を乗り越えることができるのです。
 子どものこころを木にたとえてみます。こころの根っこを育てておけば、どんな強い風雨にも、どんな重い雪にもその枝が折れることはありません。しなやかにしなってまた元にもどってきます。そして寒い季節を枝の中でじっと芽吹く時を待ち、世界にたった一つの花を自分で咲かせるのです。愛情を深く受けた経験が根っこを深く張らせるのです。
 自分の考えや意見を自分の言葉で発する勇気は、子どもの時代の経験が大きく影響します。自分の言いたいことが言えずに、何かにおびえていたり、失敗や否定によって受け入れてもらえないかもしれない不安な表情を見せたりする子どももいます。自分の意見に耳を傾けてもらったり、共感してもらったりした子どもは、自信をもって次の日も次の日も挑戦し続けることができるのです。子どもが自分で解決しようとしているのに、先回りをして大人が代弁したり解決したりしていませんか?そんなことを子どもは望んでいるわけではないのです。自分の気持ちに寄り添ってほしい、自分で解決しようとしている背中を押してほしいと思っているのです。根っこのしっかり張れている子どもとはどんな子どもでしょうか。それは間違いなく愛情を深く受けている子どもです。安心して自分を受け入れてもらっていることを早くから感じ取っている子どもです。どんな
ことがあっても帰る港があることを知っている子どもです。子どもはいつまでも子どもではありません。一人の人間としての人格を形成していきます。だから、子どもを信じて待つことやどんなささいなことでも、子どもの考えを尊重し耳を傾けることを忘れずにいてほしいと思うのです。